* 黄昏に贈る3ヶ月。 4 *










誕生日後、俺は夏合宿前の暇になった一日を と共に動物園に来ていた



「あっ!あれなんだか雲水くんに似てるよ!!」



は終止笑顔でいるし、楽しんでいる

誘った俺も嬉しい



「ぇ....あれって...日本猿...」

「うん、流石ご先祖!似てるよね!」



まぁ...確かに人間は猿ではあったが......

ま、良いか

はずっとはしゃいであっちへフラリこっちへフラリ

はっきり言って目が離せない状態だ

なんと動物園も初めてくるのだという

寂しい家庭だったんだな と思いながら空を眺めていると

前方から突然悲鳴が上がった

声の方向を見ればなんと  が倒れていた

声の主は近くにいた老夫婦のおばあさんだ

俺は急いで近寄れば は口から少量では在るが血を吐いていた

ケホッケホッ っとむせ返る度に少量の血が吐かれる

救急車は中々来てはくれない

病院に着いたのはそれから一時間後だった

の両親は丁度自分達の病院で長時間の大手術を行っているとかで

来れる状態ではなく、身内代表で兄が来た



「また発作か」



兄は睨むように を見下ろした

依然呼吸器を手放せない は弱々しいというのに

兄はそれに追い討ちを掛けるかのように首に手を当てる



「いっそこのまま死ねば良いのにな」

「う゛っ......ぅ.....」

「止めろ!それでも血の繋がった兄妹なのか!?」

「フン、こいつと血が繋がってる事自体認めたくないな」

「あんたって奴は...何処まで人間が腐ってるんだ」

「お褒めの言葉だな、金剛くん」

「あんた...あんたは......」

が生まれた時から俺は の存在を認めはしなかった
病気を持って親から心配され、愛され なんでも許されて...」

「それは」

「こいつが生まれる前は俺が両親の中心だった
愛されていた!大切にされていた!

俺の存在がそこに在った!!



は、あんたを必要としていたぞ!!」

「こいつが?馬鹿な、いつだって俺を恐れ俺を避けてきたこいつが?」



兄は鼻で笑って を見下ろした

が兄を必要とした事は事実だ

確かに俺は聞いた、たった一度だけ

どんなに嫌われても兄の事は恨めない、血の繋がった兄妹だから

彼は、私の兄なのだから

私の兄は、世界でたった一人だけ

そう言って笑った を俺は覚えている

はこんな事されていたとしても、

兄を恨む事なんて出来ないだろう

世界にたった一人の兄はどんな事が在っても兄だから

出来れば...妹として、愛して欲しい  とそうも言っていた



「莫迦が、こんな莫迦な女っ......」



兄の手に力が入った

締め付けられる細い首

は苦しそうな表情を浮かべていた

そして......   兄さん   と小さく呟いた



「いい加減にしろ!!!!あんたは にとっちゃ唯一の兄貴なんだよ!
は・・・ずっと、ずっとそう思ってきたんだ
ちゃんとあんたの事愛していたんだ!愛されようとしたんだ!!」



俺は兄の襟を掴み挙げた

兄は冷たい目をしていた

何もかも失った者のように

光など、もう宿ってはいない......

.........

兄の口からそう聞えたような気がしたが

兄は勢い良く病室を飛び出してしまった



それから に意識が戻ったのは三日後の事だった



「雲水くん......」

「?」

「カメラ...どこ?」



は虚ろな目で空を眺めていた



「ここにある」

「ありがとう.....実はこのカメラね、たった一度だけ誕生日に
プレゼントされたものなの」

「?だが、一度も」

「うん、祝われた事はないんだ、でも...これは生まれて初めてで最後の
プレゼントとしてもらったの...5歳の誕生日に...兄さんから」



俺はその言葉を聞いて驚いた

あんなに を嫌っていたあの兄が、親もプレゼントした事が無いのに

それなのにあの兄が.....

信じられない



「信じられないよね、でも......カメラの内ブタにby兄貴って
不器用な字で書かれてた...たった一度きり...それ以来兄は私を
嫌ったけど、たった一度だけ私の存在を認めてくれた..だから私には」



世界でただ一人の大切な兄なの



「そして、これは生きて良いよっていう証と....私の生きた証なの」



は涙に溢れた顔を頑張って笑おうとしていた

そんな に胸が締め付けられるかと思うくらいどうしようもない感情が溢れた

もしそうなら、なんて不器用な証なんだろう

は言葉の最後に、 このカメラで撮った写真全部が私の魂なの

と そう付け足した

魂の写真

初めて見た時、俺は確かにそう感じた

あれが全部 の魂なら、

今消えんとするこの儚い魂は一体何処へ行くのだろうか

そろそろ黄昏時だという頃、

ヨロリと簡易ベッドから起上がって窓に向った



「おい..「今日の黄昏は...」

「何?」

「今日の夕日は...初めて生まれた時...五歳に初めて産声を上げた時に
見た黄昏に似ているよ......」



はゆっくりとカメラを手にした腕を構え

空にレンズを向けた



「撮るな」

「雲水くん?」

「撮るんじゃない」

「......どうして?」

「また、魂の写真が増える...... の命が
写真に宿ってしまう、今弱い最後の魂が...奪われる気がしてならない」



俺は情け無いながらも の腰に腕を廻して

後ろから抱き締めた、 今 自分はどんなに悲痛な顔をしているだろう

こんな時に出ない涙なんてなんの役にも立たないものだ

撮るんじゃない

俺はそう言い続けた

は俺に振り返って低い位置にあった俺の頭を

抱え込むように抱き締めて



「私  は健やかなる時も病める時も金剛雲水を
一生涯愛し続けると、ここに、この写真に誓います。」



俺の額に弱々しく口付けた



そして空を見上げ   カシャ  という音が個室に響いた

俺の腕に の体が寄りかかった

の顔はとても綺麗に健やかに笑っていた



「私、金剛 雲水 は 健やかなる時も..病める時も....
一生涯......一生涯 を愛し続けると
ここに.......この、写真に    

誓います。





俺は静かに微笑んだ のまだ暖かい唇にそっと口付け 強く優しく抱き締めた






どれほどそうしていただろう

の両親が来て、

を見るなり両親は泣き叫んで

簡易ベッドに戻され、エンジェルセットで綺麗にされた

戻ってきた兄が見て....



・・・・・・?      っ?

ーーーー!!!!





人はそれぞれ失って初めて気付くものと、思い出すものがある

白装束に身を包んだにしがみ付きながら叫んだ兄は

今は本当に青瓢箪宛らだった

が居なくなって、葬儀も終り

部屋の整理をするらしいと 俺は兄から聞いた

兄は の物で欲しいものがあれば持っていけと言う

俺は が最後に撮った写真と

と出会った頃からの写真、そしてカメラとあの一枚の鳥の写真を

の形見としてもらい受ける事にした

俺はこれらを捜す間、一つの封筒を見つけた

宛名は俺宛だった

封筒には宛名の下に小さく字が書かれていた





私の愛する人達へ





エピローグへ。











=アトガキ=

最終で次がエピローグです